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eドリル トップページ > That's GAKU(2014年11月)

2014年11月

世界の一流選手が認めた日本人の“職人技”

 スポーツは、わずかなタイムや飛距離の差が勝負を左右する。だからこそ、一流選手が使う用具を作るには、選手の注文に応えられるだけの技術が必要になる。
 今年の春、プロ野球選手のバットを50年近く作り続けてきた職人が引退した。ミズノテクニクスの久保田五十一(いそかず)さんだ。アメリカ大リーグ、ヤンキースのイチロー選手や、かつてヤンキースで活躍した松井秀喜選手、アメリカ大リーグで最多安打記録を持つピート・ローズ選手も晩年、久保田さんのバットを使っていた。
 プロ野球選手の使うバットは木製。アオダモやメープルの木を、選手一人ひとりの注文に合わせた太さや長さ、重さに削って作る。バットのグリップ(握る部分)の太さは、選手の希望に0・1o単位で沿うようにし、最後に重心などのバランスを整えるのが熟練の“職人技”。
 しかし、バット作りの難しさは、希望のサイズに削るだけでなく、選手の好みのしなりや反発力のあるバットでなければならないところにある。その希望に応えるには、材料となる木を選ぶ目が重要。木は育った場所によって1本1本性質がちがい、1本の木のなかでも、日が当たる部分と当たらない部分では木目の幅に微妙な差が出る。だから、丸太の状態の木を見ただけで、どんな木のどの部分から、それぞれの選手が好むバットが作れるかを見抜けないと、プロ野球選手の注文には応えられない。木を見る目を含めて、久保田さんのバット作りは“職人技”だった。
 砲丸投げの砲丸も、日本人の熟練した“職人技”に、世界の一流選手が驚いたスポーツ用具だ。
 日本製の砲丸は、アトランタ(1996年)、シドニー(2000年)、アテネ(2004年)のオリンピックで、3大会連続、男子の金・銀・銅のメダルを独占した。

 その砲丸を作ったのは、埼玉の町工場、辻谷工業の辻谷政久さん。
 砲丸投げで試合に使う砲丸は、主催者が用意する。世界の5〜6か国のメーカーの砲丸を競技場に並べ、選手はその中から使う砲丸を選ぶ。オリンピックでメダルを独占したというのは、1〜3位になった選手が、すべて辻谷さんの砲丸を選んだということだ。
 ではなぜ、世界の一流選手たちが辻谷さんの砲丸を選んだのだろう。それは、よく飛ぶからだ。「えっ? 重さも形も同じでしょ?」と不思議に思うかもしれないね。
 実は、砲丸の飛距離を左右するのは重心の位置。重心が球の中心にあるものがいちばんよく飛ぶ。重心が1oずれると、飛距離が1〜2mも変わってしまうという。つまり、辻谷さんの砲丸が最も精密に作られていたというわけだ。
 砲丸は、金属を溶かして型に流し込んで作った鋳物を、旋盤という技術で削り、微妙な重さや形を調整して作る。辻谷さんは、この旋盤技術の名工。現在は、旋盤でもコンピュータ制御のNC旋盤が主流になっているが、辻谷さんが操るのは手動の汎用旋盤。3大会のオリンピックで、他国のメーカーの砲丸は、すべてNC旋盤で作られていた。コンピュータ制御のほうが精密な形に削れそうだが、そう単純ではない。材料となる鋳物には、鉄のほかにシリコン、カーボン、マンガン、リン、硫黄など数種類の金属が含まれていて、それぞれ密度がちがうため、鋳物が冷めて固まる間に軽いものは上に、重いものは下に沈む。そのため、球の上下、左右で微妙な重さのちがいが出る。コンピュータ制御で形を正確に削っても、重心が球の中心からずれてしまうのはそのためだ。辻谷さんは、手動で砲丸を削りながら微妙なちがいを見分け、重心が中心にくるよう調整しながら削る。これぞ“職人技”。
 久保田さんのバットも辻谷さんの砲丸も、日本人ならではの繊細な感覚と技が生み出したものだ。

開発を続ける日本の“もの作り”

 個人の職人技だけでなく、企業の開発力が光るスポーツ用具もある。日本のミカサが作るバレーボールは、国際バレーボール連盟が認める唯一の国際大会公式試合球。しかも、1964(昭和39)年の東京から2012年のロンドンまで11回のオリンピックで採用されている。手作業で表皮を貼り合わせ、1日1万個以上、品質の良いバレーボールを作れる生産能力も評価されているが、国際バレーボール連盟からの要望に応えられる開発力も高く評価されている。
 近年は、「試合でラリーが続くようなボール」を要望されていた。そこでミカサでは、ゴルフボールにヒントを得て、ボールの表面に約8000個の小さなくぼみをつけ、コントロールしやすいボールを開発。2016年のリオデジャネイロオリンピックでも、ミカサのバレーボールが活躍することが決まっている。選手だけでなく、ボールにも注目したいね。
 オリンピックのテニスやバドミントン競技でも、日本製の用具が競技を支えている。テニスやバドミントンのラケットには、糸状のガットが張られているが、このガットを張る機械をストリングマシンという。北京(2008年)、ロンドンのオリンピックで公式ストリングマシンに選ばれたのは、日本の東洋造機が製造したものだった。東洋造機は、今から30年ほど前、ガットを張る強さを、世界で初めて電子制御で調整できるストリングマシンを開発した会社。日本の電子工学の技術が生きている。東洋造機は社員10人ほどの町工場だが、世界24か国にストリングマシンを輸出している。
 オリンピックやパラリンピック(左上のコラム参照)など、世界の舞台で日本人選手が活躍するのも誇らしいが、 “日本製”のスポーツ用具が世界の一流選手に使われているのも誇らしいことだね。

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